「カホール・ラバン」エッセイ集


68.そして、再びテロ

 ガザとイスラエルを結ぶカルニには、ガザからイスラエルへ、イスラエルからガザへ物資を送るための大きな倉庫がある。
 1月13日夜11時30分。倉庫の夜の作業を終え、作業員が最後の片づけをしていた時、鉄の扉の向こうに大型トラックが到着した。だがこんな時間にトラックが着くはずもなく扉は既に閉められている。
 トラックから3人のテロリストが降りると、駐車場にいた作業員を撃ち、1人が扉に爆薬をセットして爆発させた後、3人はイスラエル側に侵入。片付け作業をしていたイスラエル人労働者を狙撃した。
 イスラエル人の警備要員との銃撃戦により、3人は射殺された。
 イスラエル側死亡者は6人、12人が負傷し、病院に運ばれた。

 イスラエル側の死傷者は、倉庫で働いていた一般人である。
 死亡した6人のうち4人は、ガザ回廊に面したスデロト市(イスラエル領)の住民で、別の2人はアラブ系イスラエル人であった。
 銃撃により負傷して病院に送られた若い作業員は言った。
「僕はハイファ生まれのアラブ人だが、北部では仕事がないから、この倉庫で働いていた。カルニ倉庫で働いているのは、ユダヤ人よりもアラブ人の方が圧倒的に多いし、パレスチナ人だって働いているんだ。それなのに・・・」
 テロの直後、倉庫で働いていたパレスチナ人は蜘蛛の子散らすように逃げていったという。 
 ハマス、アルアクサなど複数テロ団体が犯行声明。

 ある議員は言った。
「アブ・マーゼンには一定限度の猶予を与えて、答えを出させなければならない。もしもそれができないならば、再び(イスラエル軍が)行動するしかない。こんな状況では撤退はできない」
 別の議員は言った。
「まだアブ・マーゼンは就任して間もないし、ガザの混乱を抑えるだけの組織が出来ていないのだから、今は静観すべきである」
 殺害された作業員の葬儀で、スデロト市の住民が叫んだ。
「一体、いつになったら答えがでるんだ。何も変わらないじゃないか。この間はあの家で今度はこっちだ。次は誰が殺されるのか? 誰の番なんだ?」

 シャロン首相は、アブ・マーゼンにメッセージを送った。
「目を覚ますべきだ。もしもテロに対するアクションを起こさなければ、テロはアブ・マーゼンを屈服させる」
 もちろん、こんな状態では、シャロン首相はアブ・マーゼンとの会談など行うはずがない。
 ホワイトハウスに招かれることもまず当分ないだろう。

 ガザにある3つの検問(エレズ、ナハルオズ、ラフィア)はただちに閉鎖され、食料や援助物資の運搬を除いては、ガザ領に入ることができなくなっている。イスラエル領とエジプト領に通勤しているパレスチナ人は、しばらく休まざるをえない。
 ガザの閉鎖は、ガザ住民の経済を苦しめることになる。だが、パレスチナ人が何をするべきか気がつかなければ、「テロ→閉鎖→経済悪化→テロ鎮圧・閉鎖緩和→再びテロ→閉鎖」という悪の連鎖は続く。
 イスラエルが検問を閉鎖するからテロが起きるのではない。テロが起きるから検問を閉鎖せざるをえないのだ。

 ではなぜテロが起きるのか? 
 イスラエルの入植地があるから? ユダヤ人が嫌いだから?
 ならば倉庫で働くアラブ系イスラエル人やパレスチナ人を撃ったのはなぜか?


(2005年1月14日 無断転記および抜粋・リンク禁止)

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