「カホール・ラバン」エッセイ集


57.報道とは何か−その4

 5月9日、夜8時のニュースは衝撃的な映像で始まった。
 ガザで殺害されたイスラエル人5名(妊婦の母と女児4人)の葬儀の列に、パレスチナ人のテロリストが銃を乱射したのだ。
 ユダヤ人の葬儀は、宗教者・非宗教者を問わず、相当な人数が集う。この日も、たくさんの参列者が集まっていた。パレスチナのテロリストに銃殺されたのが母と子供だったため、参列者にはそれぞれの友人知人である女性や子供の姿が多かった。
 悲しみに打ちひしがれる列に対して突然の銃乱射。
 道路に腹ばいになって身を伏せ、車の影に隠れる人。泣き叫ぶ我が子を抱きしめる人。安全な位置に向かって、銃弾の飛び交う中を走る人達。道路に飛び散るキッパや帽子、靴やカバン・・・。
 銃で応戦するイスラエル兵や民間の護衛兵。双方の銃声はしばらく鳴り止まなかった。
 最終的に、パレスチナのテロリスト2人は射殺された。昨夜の映像では射殺されたテロリストは映らなかったが、なんと、2人ともイスラム教徒女性に化けていたらしい。


 同じ映像を、現地駐在の新聞記者も間違いなく見ていたはずだ。
 しかしどうしたら、読売新聞は、こんなタイトルと文章を作ってしまうのだろうか。

『ガザで武装パレスチナ人をイスラエル軍が殺害』

 【エルサレム=佐藤秀憲】ガザ地区南部で9日、武装パレスチナ人2人が、ユダヤ人入植者の追悼式会場を襲撃、護衛に当たっていたイスラエル軍が2人を殺害した。入植者にけがなどはなかった。
 イスラム原理主義組織イスラム聖戦が犯行を認めた。式典は、ガザ地区南部で2日、武装パレスチナ人によって殺害された入植者5人を追悼するために開かれていた。(読売新聞)

 
 私が記者だったら、忠実にこう書く。

『ガザで女装したテロリストが葬儀場を襲撃』

【イスラエル=カホール・ラバン】ガザ地区南部で9日、パレスチナのイスラム原理主義組織のテロリスト2人がイスラム教の女性に変装し、銃を隠してイスラエル人の葬儀場に近づき、参列者を襲撃。イスラエル人側の護衛に当っていた兵士との激しい銃撃戦の末、女装したテロリストは射殺された。ユダヤ人入植者には直接のけがはなかったが、逃げる際に負傷したり、精神的ショックで病院に担ぎ込まれる人が続出した。
 この日は、今月2日、パレスチナのテロリストによって惨殺された母子5名の葬儀であり、葬儀を取材していたイスラエルの報道各社がこの模様を収録、同日夜のテレビで放映された。銃撃の中を逃げまどう参列者には女性や子供も多く、イスラエルでは怒りの声が沸き上がっている。
 

(2004年5月10日 無断転記および抜粋禁止)

http://goldwater.mideastreality.com/2004/may/10_01.html

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