「カホール・ラバン」エッセイ集


56.流行☆通信


 日本では韓国ドラマが大人気で、主演俳優の姿を一目見ようと、多くの日本人女性ファンが羽田空港に泊り込みで押しかけた、というニュースを読んだ。
 数年前はレオナルド・ディカプリオ様、2年前はベッカム様、そして今回はペ・ヨンジュン様...。

 それと同じような話である。
 インティファーダが起きればパレスチナ、アメリカが侵攻したらアフガン、再びアメリカが侵攻したら今度はイラク。
 アフリカの干ばつと民族紛争は絶えない。医師も薬も足りない。インドとパキスタンは緊張が続いている。ハイチでも政情不安定。だがしかし...、

 今、時代はイラクなのだ!
 さぁ、イラクだ、イラクに行け。イラクで写真を撮れ。イラク人と語ってそれを書け。

 現在、パレスチナに入ることは不可能の状態である。この前までパレスチナで好き放題の行動をしていた自称フリージャーナリストやボランティアは、イスラエルにはかろうじて入れても、パレスチナに入ることは公式書類がなければ非常に厳しい。
 仕方ない。イスラエルにこれ以上いても時間と金の無駄だ。陸路でヨルダンに入って、イラクに行こう。今はイラクだ。イラクが旬だ。

 現在、日本外務省から退避勧告が出ている国は以下の通り。
 全域:イラク、ソマリア、リベリア、アフガニスタン、ハイチ
 部分:インド、パキスタン、コンゴ、エリトリア、エチオピア、コートジボワール、ウガンダ

 どこもいい写真が撮れ、いい記事が書けそうである。もちろん、ボランティアのやり甲斐もあるし、その必要性が高い。だが・・・

「え、アフリカ? 何それ?っていうか、何語しゃべんの? 原住民とか怖いし」
「病気が怖いよな。薬もないでしょ」
「何が食えんの? 前さ、テレビで虫食べてんの見たけど、あれってどこ?」
「やーん、虫の話なんてしないでぇ。それに、水だって飲めないよね」
「食べ物とかともかく、ネットがないとダメじゃないですか、ネット。ないっしょ?」
「っつーか、電気がないだろ。まぁ、そういう所はさ、国連とかが行けばいいんだよ」
「そうそう。せっかく行っても、日本で誰も見てくれないんじゃ、意味ないからね」
「インド・パキスタンとか?」
「もういいっつーの(笑)。あの辺はマジでヤバいから」

 写真は誰でも撮れる。カメラになど全く興味のなかった私ですら、昨年オートフォーカスのデジカメを購入して以来、自分でも驚くくらいきれいに撮れることに気が付いた。今の時代、写真を撮るというのは、素人とプロの境目が非常に接近してきているのではないだろうか。
 だいたい、紛争地帯に行って写真を撮りたい者は、『立場の弱い(はずの)市民と軍人が言い合いをするところ』とか、『路上に座って泣いている汚れた顔の子供』を撮ればいいのであって、構図がどうだとか、露出がどうだとか全く関係ない。美しい景色を撮って写真集を出すわけではないのだから、ピンボケと逆光でさえなければいい。
 つまりは「写真を撮る腕」ではなく、「どれだけ危険な場所で撮ったか」が重要で、技術なんて関係ない。

 記事だって同じこと。インターネットが普及した今、私のような単なるイスラエル在住者でさえも、自分の考えを主張する場所がある。どれだけの人が読むかどうかはともかく、とりあえず発表する場所がある。何社もの出版社を回ったり、自費出版で大金を使わずとも、ネットなら安価で自己主張ができる。

 よく考えて欲しい。
 紛争は遊びではない。商売でもない。一体、パレスチナに行って、イラクに行って、何を調べ何を伝えたいのか、伝えたい側の伝えたい気持ちが全く伝わってこないのだ。
 なぜパレスチナなのか、なぜイラクなのか。なぜそれらの国を選んだのか。その国のどこにどんな興味を持っているのか。
 その国の歴史的背景、政治状況、経済状況を人に説明できるだけの知識があるか。彼らの宗教を熟知しているのか。現地の新聞を読めるのか。現地人と現地語で会話が出来るのか。
 そして、彼らの反対側にいる人達(パレスチナにとってのイスラエル、イラクにとってのアメリカなど)と、対話をしたことがあるのか。
 何の主体性もなく、次はアフガン、次はパレスチナ、次はイラク・・・。なぜそれらの国を選んだのか、断言できる理由はない。

 その国に一生住み、その国のために身を尽くしたいということなど全く考えてもいない。
 口先では言う。「命賭けだ」とか、「いつ死んでもいい」とか。口で言うのはたやすいが、実行できる人はまずいない。
 その誰もに共通していることは、「今、その国が旬だから」
 流行に応じて、人気タレントやスポーツ選手の追っかけをする女性と全く同じである。

 さぁ5年後、フリージャーナリストやボランティア活動家たちは、どの国で何をしているだろう・・・。


(2004年4月17日 無断転記および抜粋禁止)