「カホール・ラバン」エッセイ集


49.道とフェンスとテロリスト−2


「ここで明言するが、これは『アラファト・フェンス』である。アラファトが建造したフェンスである。彼のテロがこれを生み出しし、建設を避けられなくしたのだ。アラファトがいなければ、フェンスはなかった」

 12月8日、イスラエルが建設する、対パレスチナ「防御フェンス」についての争議が行われている最中、ギラーマン・イスラエル国連大使は、国連議会の会場で高らかに断言した。
 どうせイスラエルが何を言おうと、世界はパレスチナに賛成するのがいつもの習わしなのだが、今回はちょっと違った。
 賛成90票。反対8票。そして、棄権74票。
 世界が、パレスチナ問題を取り上げる時、これほどまで棄権票が集まることはなかった。
 賛成票は、当然ながらアラブ・イスラム諸国に加え、アフリカ諸国。自分達が欧州の植民地政策によって勝手に敷かれた線で苦労した経験から、国境線というと過敏になるのだろう。
 棄権票を投じたのは、EU諸国と日本を含めたアジア諸国。テロとの戦いに苦しむイスラエルを対岸の火事と思っていたはずだったが、最近ではあちこちでその火の手が上がっている。他人事では済まされない状況だということをどうやら分かってきたらしい。 
 それにしても『アラファト・フェンス』とは、非常に分かり易いマスコットネームではないか。


 さらに12月26日、過激な行動で知られる世界からの「活動家」達が、パレスチナ側に集合し、金網フェンスをカッターで切断するという飛んでもない行動が起きた。これに対してイスラエル軍が発砲したため、イスラエル人活動家と外国人活動家が負傷した。
 負傷したイスラエル人男性の父親が取材に答え、「同じユダヤ人に発砲するとは言語道断」と捲くし立てた。軍は「パレスチナ側にいて、パレスチナ人と同じターバンを巻き、フェンスを切断しようとしている男性がユダヤ人であるなどと、誰が分かるのだ?」と表明。イスラエル世論も、このイスラエル人男性の行動と息子を擁護する父親には呆れるばかりだった。
 このデモを撮影したのはパレスチナ側からの撮影クルーだけで、イスラエル側から撮影するメディアはなかった。どうせ事前に彼らは、「今日はサイコーに面白い抗議行動をしますから、カメラでばっちり撮りましょう」と、パレスチナのメディアに声をかけていたのだろう。
 詳しいことは発表されていないが、イスラエル軍が発砲するくらいだったのだから、フェンスを切断する以外のアクションがあったのでは?という声も上がっている。さらに彼らが狂気の抗議行動をする傍らに、パレスチナの救急車が待機していた。これには驚いた。単なる普通のデモなら、なぜ救急車を呼んで待機させておく必要があるのだ?

 それはともかく、この活動家達は、世界中にとても大切なことを実証してくれた。
『金網フェンスは、ワイヤーカッターで簡単に切れるから、防御フェンスの意味を成さない』 


 1月14日、右派リクード党のエフード・オルマート商業相(兼副首相)がパレスチナ放送局のインタビューを受けた。
 ガザに事務所を構えるパレスチナ放送局のクルーは、ガザの北・エレズの検問所を通り、エルサレムのオルマート氏の事務所までやってきた。
 イスラエルのテレビ局もこの模様を収録し、機材を積んだクルーの車が検問所を通過するシーンから始まった。

パレスチナ「オルマート運輸相、はじめまして」
オルマート「はじめまして、って、私は運輸相じゃない。商業相だよ(笑)」

 インタビューは穏やかに進んでいた。リクード内では、シャロン首相の側近として、副首相になるずっと以前から常にシャロン派であるオルマート氏。副首相であるオルマート氏の言葉は、シャロン首相の言葉にほぼ近いのだから、インタビュアーも質問する甲斐がある。
 話が「防御フェンス」の話に差し掛かった時である。オルマート氏の秘書が、小さなメモを持ってきた。オルマート氏の顔色が曇った。パレスチナ側のインタビュアーも、遮るように渡されたメモにどれだけ重要なことが書いてあるか、察しただろう。

「エレズ検問でテロ。4人死亡。負傷者10名」

オルマート「このメモに何が書いてあるか分かるか? テロだよ。自爆テロだ。今日、あなた達が通過してきたエレズの検問でテロがあったんだ」
パレスチナ「でもイスラエルの・・・」
オルマート「何のためにフェンスがあるのか? テロがあるからだ。テロがなければ、フェンスを作る必要は全くなかったんだ。これはあなた達の手で作ったフェンスなんだ」
パレスチナ「でもイスラエルのフェンスは、私達の領土を侵入している」
オルマート「それはテロの理由にはならないじゃないか。あれはパレスチナが作ったフェンスだ」

 エレズ検問は、イスラエル領内で仕事を持っているパレスチナ人にとって大切な場所である。パレスチナ内には仕事がないのだから、検問を越えてイスラエルに来るしかない。仕事だけではない。ガザの病院では治療が不可能なパレスチナ人患者だってこの検問を通過する。世界中が、「貧しくて可哀相なパレスチナ難民」へ送る救援物資も、この検問を通過する。
 つまり、この検問がなければ困るのはパレスチナだ。実際、検問事務所を爆破したことによって、コンピューター設備なども損傷を負っており、即座に検問を復活することは不可能な状態にある。


 数日前、久しぶりに長距離バスに乗った。バスターミナルを出発して10分後、バス停から警備員が乗車し、車内を見回して次のバス停で降りていった。冬の雨の降りしきる中、彼らはバス停で待機しては、通過するバスに乗って、車内を巡回チェックしているのだ。
 ビルの入り口には必ず警備員が目を光らせており、カバンを開いて中を見せなければならない。最近では2人以上の警備員をつける場所が増えてきた。ここまで金を使い、体を張らなければ、テロを防ぐことができない。

 テロリスト侵入を避けるにはフェンスが必要だ。しかし、単なる金網ならワイヤーカッターで切断できる。切断せずとも、金網フェンスの向こうからこちら側を狙撃する事件だって頻繁に起きている。
 だから、巨額の費用をかけても、コンクリート製の分厚い壁を築き上げなければならない。その効果か、テロの数は減少している。しかし、世界の世論が騒ぎ立てる。その上、双方を繋ぐための大切な検問所までテロ攻撃される。 
  
 2月末、国際司法裁判所でフェンス建設に対する審理が行われる。
 既に結果は見えている。ハーグの街には世界のイスラム教徒と反ユダヤ主義者が集結して大デモ行進。圧倒的反対多数でフェンス建設は否決される。そして、再び反ユダヤ主義の風潮がヨーロッパを中心とした世界中に吹き荒れるのだ。

 フェンス建設に反対するのは結構だ。
 しかし、何の解決案もないまま、反対反対というだけでは、イスラエル人の命を奪うテロリストを擁護するだけだ。
 誰もが納得がいく解決案を提示しなければ、何もならない。
 話し合いも信頼関係ももはや崩れ去っている。ほしいのは明確な答えである。

「どうやったら、パレスチナのテロ集団を解体できるのか?」


(2004年1月17日  無断転記及び抜粋禁止)


参考資料
http://www.israel-un.org/gen_assembly/pal_issues/10ess_8dec2003.htm
http://www.un.org/News/Press/docs/2003/ga10216.doc.htm

 
追伸:
 報道規制が厳しいパレスチナ放送局はこの収録を流しただろうか?と疑問に持つ人もいるかもしれない。全面カットか、或いはテロ云々の部分をカットして流したのではないか。せっかく決定的な意見だったのに・・・。
 いやいや、パレスチナの放送局が流さずとも、パレスチナでもイスラエル放送は流れているから、この一部始終を見る人は見ているはずである。
 ちなみに、オルマート氏はインタビューの後、傍聴していたイスラエルのリポーターに、「パレスチナとのインタビューはどうでしたか? 大変でしたか?」と聞かれ、こう答えた。
「イスラエルのインタビューに比べたら、簡単だよ」